譜読みって何を読むの?

一般的に、
「譜読み=音符を読むこと」
「練習=ひたすら弾いて覚える」

と思われてます。


違います。
譜読みは、その音符を通じて
・音楽を読む
・指の動き読む

です。

楽譜を読むって
語学学習に似てると思うのです。

例えば英文を読む時って
①:アルファベットを覚える
②:単語を覚える
③:文法を学ぶ
④:書かれている内容を理解する

などの手順を踏むと思います。


「アルファベット覚えたよね!
あとは何度も読んで覚えてね!」

そんな指導はしません。


ところが譜読みになると
「音符覚えたよね!
あとは何度も練習して覚えてね!」

が多いのに驚きます。




そこで今回は、
『譜読みは何を読むのか?』
の一例をご紹介します。


例えば、この曲。


バイエル51番です。
ピアノ導入期に出てきますね。



ト音記号だけなので、

よくある指導は
①音符の読み方を教える
②指が動きを覚えるまで何度も弾く
が多いです。



でも音符を通じて
この曲に書かれているのは

音楽形式・ABA形式
調性・ハ長調(Cメジャー)
拍子・4分の4拍子
リズム・4つの8分音符(タタタタ)
・4分音符(タンタン)
・2分音符(ターアー)
和音分析・ハ長調 Ⅰ、Ⅴ7
・不完全和音
ポジション分析・指広げ
・ハ長調 Ⅰ ポジション(ドレミファソ)
・ハ長調 ⅶ ポジション(シドレミファ)
・オクターブ移動
メロディー
パターン分析
・定番パターン(山型)
・シークエンス(パターンがズレる)
表現のための
テクニック分析
・腕の重み
・浮き上がる手首

といったことです。

慣れてない人にとっては
「え?何コレ?訳わからん…大変そう…」
ですよね。

でも普段こういった観点から読んでると
このレベルであれば数分、
早い人は数秒で行います。

そしてほとんどの人が初見で弾けます。
(ただしゆっくりなテンポです)

英文で言うと
短い童話程度でしょうか。

では詳しく見ていきましょう。

【音楽形式】

音楽形式とは、
曲のおおまかな流れのこと。

この場合、
2つのメロディー(A・B)に分けられます。


[A -B -A]の3部形式です。

ということは、
A→Bと来たらもう一度Aを弾くので

「もう一回Aを弾いたらおしまい」となり
精神的にも楽。

分析段階で
細かく音符の確認をしておれば、

弾きながら音符を
一つ一つを読む必要はありません。

また音感があれば、
右手のメロディーはほとんど覚えており、

左手の動きを読むだけで弾けるので
かなり楽になります。

【調性(ちょうせい)】

調性とは、色合いのことです。

リズムや和音によってもイメージは変わりますが
ざっくり分けると

#系=寒色系、爽やか
♭系=暖色系、柔らか
のイメージが多いと思います。



この調判定が譜読みの何に役立つのか?は、

①出てきやすい和音
(主要3和音:Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅴ7)が分かる

②出てきやすい臨時記号が分かる
です。


この曲の場合、
最後の右手=ド
左手=Cコード(ミソド)

で終わっているのでハ長調です。


ということは、
Ⅰ:ドミソ
Ⅳ:ファラド
Ⅴ :ソシレ
Ⅴ7:ソシレファ

が出る可能性が高い。
ということが分かります。



②臨時記号は、
・転調のための臨時記号
・飾りのための臨時記号
があります。


でも今回の曲には
臨時記号がないので
「黒鍵はない」が分かります。

【拍子】

4分の4拍子なので、
「1・3拍目に強拍を感じてね。」
という拍子。


この強拍を意識すると、
複雑なリズムになっても
テンポがずれにくいし、

速いテンポも
弾きやすくもなります。

ノリのある演奏にするのにも
大きく貢献してくれます。

【リズム】

リズムにはよく出てくる
定番パターンがあります。

今回使われているリズムは、
8分音符4つの「タタタタ」(緑)
が多いですね。

[タタタタ]でない
もう片方の手のリズムは

2分音符の[ターアー](ピンク)です。


なので、

・左右でこれらの違うリズムが弾けるか?

・違うリズムを音符が加わっても弾けるか?

・リズムが左右入れ替わっても弾けるか?

・途中、4分音符に変わっても弾けるか?

・もちろん一定テンポでそれらができるか?

を事前に養っておくのがオススメ。


理由は
リズムが未熟だと
音を読む作業が加わったら
簡単に崩れるからです。

リズムが崩れるってノリがないので
「楽しい」にはなりにくいです。

楽しむには、
音符が読めるよりも
まずはリズムです。

【和音分析】

和音とは、
いくつかの音が同時に鳴ることで
生まれるハーモニー。
響きのことです。


響きには、
・明るい響き
・暗い響き
・めちゃくちゃ暗い響き
・不思議な響き
などがあります。


この響きを感じられるのが
ピアノの醍醐味。


そして和音分析は、
どんな響きがするのか?
を読む作業です。


そのためには

・どの音符が和声音(和音を構成する音)なのか?

・どの音符が非和声音(和音構成音以外の音)なのか?

・どのメロディーまでの音符を組み合わせるか?


などの知識が必要。

なぜならば、
どの音を考慮して和音を判定するのか?
が分からないと、

正しく分析できないからです。


そして、
出てきやすい和音(主要3和音)を
優先的に分析しますが、

大体1小節か2拍ずつで
和音が変わります。

(たまに毎拍変わる時もありますが、
それは初心者向けではありません。)



今回の曲の場合、
和音分析はこのようになります。

本来、和音が変わらない箇所は何も書かないのですが、
今回あえて2拍ずつ和音記号を書いています。


ここで大事なのが、
正しく和音分析ができた!
で終わらせず

その分析結果から
響きが想像できるか?です。


なので、
・ Ⅰ =落ち着いた響き、
・Ⅴ7 =不安定な響き
を脳内で鳴らすのが目標です。


しかし!!!!


この曲は、 Ⅰ なのに
ドミソ全ての音を弾いていません。

Ⅰ の和音の中から
チョイスされた音だけを使って弾く
不完全和音なのです。

これがこの曲を
難しくしてる要因だと思います。

いっそ、このように
完全な和音で書かれている方が
弾きやすいです。

とはいえ、
いきなり不完全和音を弾くのは
難しいもの。

詳細は省きますが、
レッスンでは

① Ⅰ と Ⅴ7の和音の響きの違いを感じる

②それぞれの和音の仕組みの理解

③左右の指の組み合わせ

④ Ⅰ の和音を使って
  右手:メロディーを弾く
  左手:右手以外の音を使って弾く

⑤④で行ったことをⅤ7で行う。

⑥④で行ったことを、ⅠとⅤ7の進行が変わってもできるようにする。

などの工程を経て、
不完全和音を弾けるようにします。

もちろんこれだけでは
全ての不完全和音に
対応できません。

でも定番の動きだけでも
身につけておくと楽です。

なぜならば
「定番=低意識で弾ける」
にしておくと

定番以外に
意識を向けやすくなるからです。

逆に、定番が身についていないと
「全てが定番以外=全てに高意識が必要」と
かなり大変。

ちなみに私は
「基本を身につける
 =定番を身につける」だと考えています。

「バイエルが終わった。」
「ハノンやってる。」
ではないと思います。


そして、不完全和音であっても
・タテの響きを感じる
・そのときの指の組み合わせも捉える

が大事。

和音の項目でもお伝えした通り
響きはさまざまな音の
組み合わせで生まれるもの。

[ド–ド]など同じ音の響きも
シンプルで良いのですが

[ド–ミ]など違う音の組み合わせの方が
断然綺麗に聴こえます。


この曲もそうです。


左右の音の距離(音程)が
10度(緑)、6度(赤)、3度(紫)

その他の色枠と比べて
とても心地の良い響きです。

この響きを味わおうとすると、
大切に弾きたくなります。

余談ですが
うちの生徒さんはみんな
これらの響きが大好きです。

逆にこの「味わう」がないと
「正しく弾くための演奏」となり、
楽しさは半減すると思います。

ぜひ譜読み段階から
味わって欲しいと思います。

【メロディーパターン分析】

「メロディーパターン分析」
は私の造語です。

・短いメロディーを探す
・そのメロディーがどう発展しているか?を読む


これを
「メロディーパターン分析」と
読んでます。

曲は、2拍〜2小節ほどの
短いメロディーをもとに
作られてます。

そしてその短いメロディーを

・単純に繰り返す
・違う音からスタートする
・違う手で時間差で弾く
・リズムを変える

など発展させることで
曲を作ることが多いです。



なのでメロディーパターンが、

・どこにあるのか?
・どう発展していくのか?

を読みます。



この曲の場合は、

↑ この[となりに上がって、
飛ばした音(最初の音)に下がる]

という[山型]の動きがたくさん出てきます。(ピンク)

右手の8分音符はほとんどが
上のパターンですね。

その動きが、
1小節目1拍目=ミ、
1小節目3拍目=ド、
2小節目1拍目=レ 
からそれぞれスタートさせています。

実はこの

[となりに上がって、
飛ばした音(最初の音)に下がる]
という動きは、よく出てくる動きです。

私のレッスンでは、
この動きだけを使った練習を
事前にしているので

このパターンを見た瞬間、
「あぁ、この動きね」と
指の動きを想像することができます。

となると、音名を認識するのは
パターン開始音のみ。
(=各小節の1・3拍目のみ。)

なので
「本当に音名認識をするのは
各小節の1・3拍目で大丈夫なのか?」

を確認するために事前に
細かく分析しておきます。


どうでしょうか?

この音名を認識する箇所が
少なくて済むの


弾き手にとって、
かなり楽になるのでは?と思います。

【ポジション分析】

そして次はポジション(指の置き方)分析。

「ポジション分析」も
私の造語です。

ポジション分析とは

何のメロディーの時、
指はどこの鍵盤に置いているのかを

把握する作業です。



この曲の場合、ほとんどは
左右ともに[ドレミファソ]
に置いています。

なんですが、じつはこの曲、
途中の赤丸箇所でポジションが変わります。

理由は、右手ドの隣にある[シ]を
弾きたいからです。

なので、赤印で
右1指をシに広げたのをきっかけに

しばらくは[シドレミファ]に
置いたまま弾きます。(オレンジ)

となると、
今度は不完全和音で使っていた
[定番の指の組み合わせ]が使えません。

そこで物を言うのが
脳内に鳴っている『響き』です。

タテの響きを感じていると、

多少指の組み合わせが違っていても
引き寄せられるように
指が動くんですよね。

正直これについては
科学的根拠はないのですが、

ほとんどの生徒さんが
『響き』を頼りに弾いてます。
(もし、科学的根拠があれば教えていただきたいです)

逆に、響きが鳴ってない人は
スムーズに弾けないのです。



そして青丸印で、
元のポジション[ドレミファソ]に
戻ります。


なので、
・重要な指番号(移動のための指番号)
・そうでない指番号
(移動なしの指番号)
を見分けられると、

指の動きも読めてきます。
(本来は、移動がある箇所にだけ
指番号が書かれるものです)

あとは、
2段目最後の小節の左手
オクターブの動き。(緑)

これは
1オクターブ広げる鍵盤感覚
身についていると

鍵盤を見なくても
スムーズに弾けます。

ただこれも
「なぜわざわざ1オクターブ下のソを弾くのか?」
の意図が読めてないと

これまた
理論に囚われた弾き方になります。

もし弾く機会があれば、

・同じ高さのソを弾いた時
・1オクターブ下のソを弾いた時

の響きの違いを
比べてみてください。

1オクターブ下の音の方が
響きの広がりを感じませんか?

前の小節から弾くと
一番気持ちを入れたくなる箇所
だと思います。

なので、
響きの広がりを感じながら弾くと

音名を認識する前に
指が動こうとするので
弾くのは楽だと思います。

【テクニック分析】

そしてテクニック分析。
これも私の造語です。

これは、
音楽を表現するために
どのような身体の使い方をするか?
を読む分析です。


よく「譜読みができたら強弱をつけよう」
と考えがちですが、

可能であれば書かれている
・強弱
・スタッカート
・スラー
・アクセント
くらいは

譜読み段階で
できるようにしておきたいもの。


逆に言えば
これくらいには対応できるテクニックを
身につけておきたいです。

すると
譜読み段階で音楽になる
つっかえる箇所を解決できることも多いです。



もちろん、
細かなニュアンスを表現するために

身体の動きを
ミリ単位・グラム単位で
微調整するレベルのテクニックは

この時点では必要ないと思いますが、

ざっくりとした強弱変化くらいは、
最初の譜読み段階で
できる方が良いと思います。


というのも、
「弾けるようになったら強弱」は、

一応弾けるけど
すでに腕の動きが
反対だったりすることが多く、

そこから修正するのが
とても大変だからです。


意識して弾いたのを変えるのは
やりやすいのですが、

無意識に弾いたのを変えるのは
至難の技。

正直、その曲は諦めることもあります。


この曲の場合、
強弱記号が書かれていないので

定番かな?と思う強弱記号を
私が書いてみました。

仮にこれを表現しようとすると
手首の動きや重さ加減は
このようになります。
(表現の考え方によって変わるので、
あくまでも一例です)

ここまで細くなくても、
fとpくらいの弾き方は変えられると、

音楽を感じながらの譜読み
ができます。

曲に使われる「必要スキル」を身につけよう

ここまで、
「譜読み」は何を読むのか?
の一例をご紹介しました。

長々とお付き合い下さり
ありがとうございます。


もう一度この曲に出てくる
必要スキル(概念)を見ると
下記の通り。

音楽形式・ABA形式
調性・ハ長調(Cメジャー)
拍子・4分の4拍子
リズム・4つの8分音符(タタタタ)

・4分音符(タンタン)

・2分音符(ターアー)
和音分析・ハ長調 Ⅰ、Ⅴ7

・不完全和音
ポジション分析・指広げ

・ハ長調 Ⅰ ポジション(ドレミファソ)

・ ⅶ ポジション(シドレミファ)

・オクターブ移動
メロディー
パターン分析
・定番パターン(山型)

・シークエンス(パターンがズレる)
表現のための
テクニック分析
・腕の重み

・浮き上がる手首


パッと見簡単そうな曲ですが
きちんと理解して弾く。
となると

色々な内容が含まれているのが
分かります。

とはいえこれらを
初心者の方が理解して弾くのは
とても大変。

なので私はこれを
初心者の方にはオススメしないのです。


でも理解して弾くと
とても素敵な可愛らしい曲に
感じませんか?


単なる練習曲として弾くよりも
音楽を感じながら弾いた方が

遥かに豊かな時間を
過ごせるのではないでしょうか?

なのでレッスンでは、
こうした

・音楽を読むための譜読み
・指の動きを読む譜読み


を行っています。


具体的には

右側の欄に書かれている
曲を弾くための必要スキル(概念)を
曲を通じて身につけています。

ちなみにその指導を行いやすいのが
ピアノアドヴェンチャー。

こうした一つ一つの
必要スキルを
学びやすい順番で学べます。

・どんな必要スキル(概念)があるのか?
・どんな順番で学ぶのか?

はこちらをどうぞ!

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